あたりまえの働き方に潜む「誤った常識」が、
あなたの大切な時間を蝕んでいる

10年ほど前、私の会社は、お客様からの納期の問い合わせの電話でひっきりなしでした。納期遅れは常態化しており、お客様も毎週のように納期フォローのために来社され、会社の収益性も悪く、売上が下がれば、すぐに赤字に転落。残業、休日出勤当たり前。矢田工業所(私の会社)には“正月以外の休日はない”とまでいわれていました。しかし、正しくちゃんと、働き方改革に取り組んだおかげで、比較的短期間でその状況を改善することができます。それは働き方に対しての考え方を少し変え、そして、それに合わせて少し行動を変えただけで実現したものです。

世の中の一般常識には「誤った常識」というものが数多く存在しています。そして、その「誤った常識」はあなたの仕事の生産性を落とす原因にもなっているのですが、多くの人はそのことに気づくことすらなく仕事をしています。

例えば、あなたの会社では、こんな働き方をしていませんか?

  • 全員とにかく手を休めずに、働け!
  • 改善は全社の活動だ!
  • 改善はとにかく、まず2S(整理整頓)だ!
  • まとめて作業した方が、効率がいいんだ!
  • 納期を守るためには、なるべく早く着手するんだ!
  • 能力が高い人はより評価されるべきだ!
  • なるべく余裕がないように最小限の人員配置をすべきだ!
  • 材料はなるべくまとめて安く購入するべきだ!
  • みんなで一緒に休憩をとるべきだ!
  • コストが合わないなら、そんな仕事はやめるべきだ!

これらの一見常識的な働き方の中に、生産性を阻害する要因が含まれています。

ゴールドラット博士の著書である「ザ・ゴール」でジョナが語る「作業員が休むことなく、常に作業している工場は、非常に非効率なんだ。」という一文は、従業員は「休むことなく働くべき」という工場における常識が、そもそも誤りであるということを示唆しています。しかし、ほとんどの経営者やマネージャーは「休むことなく働くべき」という常識を疑うことすらしていません。そんな仕事のやり方、やらせ方が、あなたや、一緒に働いている人の大切な時間を蝕んでいるとしたら、どうでしょうか?

言い方を変えれば、「正しい常識」を前提にして働くことができれば、あなたの時間はより有効に活用され、人生は有意義なものにできるようになるはずです。(もっとも「仕事をしていないと、何していいかわからない!」、という人も多くいるのは事実なんですが、、、) 時間は誰にとってもまちがいなく有限です。1日は24時間、1年は365日。人はせいぜい長くても100年程度の寿命しかありません。ほとんどの人はそれよりも短い。「時は金なり」という言葉もありますが、お金については理論上の上限はありません。お札は刷れば増やせます。ですから、お金より圧倒的に時間の方が我々の人生において重要であるはずです。しかし、多くの人がその事実をなんとなく理解していても、なるべく意識していないようにしているのではないかと思います。

あたりまえですが、無用な時間的な損失は減らした方がいい。ただし、自分一人では解決できないこともあります。ほとんどの人が会社のような組織・システムの中で仕事をしていますが、組織には「つながり」と「ばらつき」があり、あなたの失われた時間は、後ろの人に連続的に引き継がれていきます。自分が非効率的な仕事をすれば、そのあとに続く人は、全員が「非効率的」となる。その「損失」を挽回することはできないし、その「非効率の連続」は、非常に大きな時間的な損失につながることになりかねません。それぞれがより有意義な時間の使い方をできるようになれば、組織の生産性は格段に上がるはずです。しかし、組織の中にいて、そのようなことを意識して仕事をされている方は少ないのではないでしょうか?また、気づいたとしても、自分ではどうにもならないと考えているのでは?

イスラエルの物理学者であるゴールドラット博士のTOC(Theory Of Constraints:制約理論)に元づいて、「誤った常識」を正すことによって、工場や会社の生産性を改善することを提案させていただいています。TOC(制約理論)は、「ザ・ゴール」という本が有名ですが、実際に工場の立て直しを図った経験がそこには書かれています。TOCは製造業だけではなく、どこの職場でも活用できるもので、あなたの働き方改革に必ず役立ちます。

世の中で働き方改革についての情報はあふれています。やみくもに、個人の働き方に焦点をあてるもの、組織や社会の問題にしてしまうもの、個人の気持ちの持ちようを問題にしてしまうもの、やたら不安を煽るものなどがありますが、なかなか具体的な解決策は示されていないのではないでしょうか?


TOCを前提にすると、今まで、あたりまえと思っている働き方の中にたくさんのムダがあり、組織の「制約」(ボトルネック)を意識して考え方を少し変えるだけで生産性が大きく改善し、結果として働く人の生活にもゆとりができるようになります。

ひとつ間違いなく言えることは、組織の働き方改革は現場の一作業者だけでは解決できません。組織全体で取り組むべきで、これはマネジメントで解決するしかありません。確かに一方的な労働時間短縮を要求されることは、リソースの少ない中小製造業への負担が極めて大きくなっていると思います。これは納期対応において、お客様との板挟みに苦しむという状況も十分に想定できます。しかしながら、個々の従業員が、より生産性が高い仕事ができる、また、それぞれの生活により多くの時間を割くことができ、充実した人生を送ってもらえるような仕組みに変えるには、非常にいい機会ともいえるのではないでしょうか?私はTOCがその一助になると確信しています。それぞれの人が限られた時間をより有意義に使うこと、そして、組織全体の生産性が大きく向上することに、間違いがあるはずがありません。

制約を意識するかしないかによって組織のアウトプットに大きな差がでます。シンプルにとらえて根本問題に向き合えば解決できることでも、今までの「誤った常識」や「しがらみ」にとらわれてしまい、大きく生産性を落としたままで、なかなか改善できない事例もたくさんあります。しかし、そんなことすら気づいていない人も多くいるのも事実です。

もし、いつも忙しいんだけれど、なかなか働き方改革が進まないという経営者やマネージャーのみなさん、ぜひ一緒に働き方改革をすすめませんか? 勇気をもって「誤った常識」と戦い、みなさんの「より充実した人生」のお手伝いができればと思います。

和と全体最適のマネジメント コーチ
野村昭郎